道産子エンジニア

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フィリップ・K・ディック「ユービック」を読んだ

ユービック (ハヤカワ文庫 SF 314)

ユービック (ハヤカワ文庫 SF 314)

どこからが現実でどこからが幻覚、または夢なのか。ディックトリックと仮に名付けるとして、本作はオチまでトリック満載だった。

ディックトリックが一番巧妙で面白い作品は、明らかに「少数報告」なのだけど、ユービックは翻弄されまくって本当にわからなくなる。そこがよかった。読者から現実への信頼を一切取り去ってしまう。

読み終わってから気がついたのは、最初から最後まで、おかしなことがあるだった。物語を描き、こんなにも物語なのか?と騙される体験はまずない。痺れる感覚だった。

退行する世界、過去へ干渉する女、半生命、この作品では総じて死についての現実性を問いただしているのかもしれない。死とは何であり何でないか、人は死ぬとどうなるのか、それとも死なないのか。それをディックなりに答えたのがこれかもしれない。

ユービック。神の遍在。ubique。ユビキタスにもつながる思想であり、最近見たもので言えば、アイヌ民族の思想にも似ている。すべてに神は宿り、遍在する。アイヌの場合は日本文化が強いし、多神を是とする考え方だが、ユービックでの神は(という概念は)唯一神だと思う。

そして死は祈り続けるか、自らを神とするかでしか抗えないというメッセージも感じた。

映画「インセプション」を見た人にはなんとなく通じるかもしれない。

ディックのきめ細かい過去の事物への執着、愛着なども要チェックだ。

ディックの代表的作品と呼ばれるものは、哲学的思考や問いかけを背景としたメッセージ性があり、それと同時にディックトリックが脳を痺れさせてくれる。ユービックは何度も読みたい作品だ。


今年に入ってからはディックしか読んでない。ストックはあと二冊しかない。

読書所要時間:約6時間
おすすめ度:★★★★☆