道産子エンジニア

悲観主義は気分に属し、楽観主義は意志に属する

ティエン・ツォ「サブスクリプション 顧客の成功が収益を生む新時代のビジネスモデル」

サブスクリプション――「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル

サブスクリプション――「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル

  • 作者: ティエン・ツォ,ゲイブ・ワイザート,桑野順一郎,御立英史
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2018/10/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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2007年創業のSaaS企業ってほぼないんじゃないんだろうか。Zuoraはその数少ない企業の一つだ。それよりもっと前からインターネットを使ったビジネスをやっている会社はあるが、SaaSというパッケージでプライシングして始めていたのはほとんどないだろう。GitHubやHerokuも2008年でそのあとなのだ。体感として日本でこれからはSaaSや!みたいな流れになったのはここ5年くらいだと思う。Zuoraみたいな企業が今でもないというのは日本が10年以上ビジネスが遅れているという気もして悲しい気持ちがある。

それはさておき、カスタマーサクセスという言葉を最近よく聞くようになった。その流れを作ったのがZuoraだそうだ。今では当たり前になりつつあるが、顧客の事業がうまくいくことで自分たちが儲かる仕組みはやはり強い。こういうと「なんだtoBむけの話か」みたいに思うかもしれないが、そうではない。この本にたくさん詰まったエッセンスの一つに次の言葉がある。

典型的な企業のテクノロジーは、B2BかB2Cのいずれかを選択せよと迫るが、本当に必要なのはBもCも含んだB2A(toAny)なのである。

ビジネスをする上で、重要なのは「何をつくるかより、誰と作るかだ」というような言葉をよく聞くが、誰と作るかはもちろんとして、何を作るかも大事だと思う。 どうせならどちらかに限定したビジネスより、どちらにも使えるものであったほうがいいに決まってるが、元からそう考えてないと難しい。従量課金はそのヒントだと思う。

この本全体を通じて感じるのは、Zuoraのビジネス成功について書いてある本のはずなのに、そのほとんどがZuoraを使って成功した顧客たちのエピソードを書いているという違和感だ。そしてその違和感こそがZuoraの強みであり、真のカスタマーサクセスを実現している会社なのだ。つまり、Zuoraは自分たちのサービスを使ってくれる顧客に寄り添い、そのビジネスをサポートして成功に導いたからこそ成功したのであり、その成功への道を知っていることが「カスタマーインサイト」と呼ばれる強みなのである。

どの企業も自分のビジネスが成功している話はするが、他社の成功について即座に答えれることはないだろう。この本はそこが一番面白かった。

なぜAppleが年々販売台数について話さないのかわかるだろうか?(減っていて都合がわるいからではない。)わからなければ、ぜひこの本を読むべきだと思う。

製品の時代から顧客の時代へ

俺は何度もいろんなところで話しているが、TSUTAYAなどでレンタルをしてる人がまだいるのが驚きだ。実際に身に着ける物でなければ、今の時代物理的に見に行く必要などないのに。漫画はもう一息だと思う。出版のような既得権益者が多い世界では動きが遅いのではないだろうか。音楽は幾度もメディアを媒介して自分の物にする世界から、ダウンロードする世界に変わった。これは単純にコンテンツだけの話ではない。自動車もサービスになりつつある。詳しくは本に書いてあるが、製品を作って売る時代から、顧客を中心に適したサービスを売る時代になっている。

気が付いたのだ。CDが欲しいわけじゃなく、音楽が聴きたいことに。車が欲しいのではなく、移動したいことに。そして、それらの要望が一人一人全く異なるということに。 当たり前のように聞こえるかもしれないが、ほとんどの企業はまだ製品を作って売るのに慣れて、在庫がどれくらいといった会計が仕事になっているということに気が付いてない。

これは「ユーザーファースト」のようなぼんやりとした設計思想の話ではない。人間工学や認知科学、心理学の話ではない。リアルな個人をデータとして知り、サービスを柔軟に提供してくという世界だ。攻殻機動隊やらサイコパスのような世界が目の前にきている。そのとき生き残れるビジネスの基本となると思う。


かなり確証バイアスのかかった意見なので、冷静にいろんな情報を見ていきたいが、やってみたい事業ドメインだなと感じた一冊だった。

サボり気味だったブログを振り絞って再開している。

読書所要時間:約5時間
おすすめ度:★★★★★