ブレードランナー2049の余韻も少し落ち着いてきたこの頃。
先々週くらいにアマゾンで激アツの海外SF小説セールが行われていたので、すかさずディック作品を買い漁った。
ここからはしばらくディックばかり読むことになると思う。
ザップ・ガンはディック作品の中でもあまり人気のない?と前評判を聞いていたが、そんなことはなく自分は楽しめた。
だがディック本人もこの作品をクソだとインタビューに答えているようで、前半部分はまるで読めたものじゃないとまで言っていたらしい。
まだ生きていてTwitterアカウントでもあったら、「そんなことはない、これは最高だよ」ってメンションしたかった。
これを書いた頃のディックは、質より量的な執筆をしていた頃らしく、年に長編小説を6冊も出版していたそうだ。
そんな活動を見習いたい。失敗してもいい、駄作でもいいからとにかく作りたいって時はあると思う。そういう苦悩の末に何か見えればいいし、見えなくても後悔はないだろう。
ディックが読めたものじゃないという冒頭から、「自動TVレポーター」「兵器ファッションデザイナー」「コンコモディー」「コナプト」みたいなディックワールド全開な感じは本当に好きだ。 これはエヴァンゲリオンを作る庵野監督も似たような技法(?)を使っていて、初めて見る人にとっては全く何を言っているのかわからないところがいい。しかもこれらは綿密に設定された奥の深いストーリーというより、物語にとってはある程度意味がわかればいい部分であって、深追いする必要のない部分というのがいい。(この時点で何を言っているのかわからないと思うけど)オーヴィルくんみたいな印象的なマシンも登場するのが油断できない。
つまり何度も読み返したくなるし、別な作品も読んでみたくなるし、とにかくググッとまさにフィクションの世界に引き込まれるのだ。小説にもよるが延々と世界観の説明をされるのは想像力を掻き立てられないから好きじゃない。カオスでディックらしい舞台がすごくいい。
それとは別にディックらしい小説には特徴がある。よく「現実とSFの世界の境目がわからなくなってる」というニュアンスに近い書評や感想を見かけるが、俺の解釈では「自分が信じているものは見方によってはすぐに変わってしまう」というようなことだと感じている。そこをディックは原点にして作品を描いているように感じる。その対象が現実の世界と機械の世界であったり、現実と夢、人間とアンドロイドなど様々なものが当てはまる。そしてその対象は自分たちが思っているほど違うものであるのか?というのを小説を通じて投げかけられているように感じる。
ディック作品を読んでみるとすぐにわかってもらえると思う。映画マトリックスでネオが現実世界に気が付いたときくらいの衝撃を受けるだろう。
ようやくこのザップ・ガンについての感想を書くわけだけれども、皮肉にもディック自身がよく用いる表現の「蓼食う虫も好き好き」ということわざがこの作品には似合うかもしれない。この作品には作家としてのディックの苦悩そのものが描かれていて、主人公が見せかけの世界で自分がやるべきこと(しかないこと)を淡々とこなしていく生活と、このままではいけないという不安が物語を暗く、深くしていく重要な要素だった。人々を殺しもすれば救いもする「ザップ・ガン」はどんな兵器であるか想像するもよし、生物を脅かす本当の兵器とはなんなのか?そういった問いを考えさせられるいい作品だった。

- 作者: フィリップKディック
- 出版社/メーカー: 早川書房
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次はシュミラクラ。
読書所用時間:約6時間
オススメ度:★★★☆☆