道産子エンジニア

悲観主義は気分に属し、楽観主義は意志に属する

フィリップ・K・ディック「偶然世界」読んだ

偶然世界 (ハヤカワ文庫 SF テ 1-2)

偶然世界 (ハヤカワ文庫 SF テ 1-2)

  • 作者: フィリップ・K・ディック,土井宏明(ポジトロン),小尾芙佐
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1977/05/31
  • メディア: 文庫
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ディックのデビュー作。 この時からディックの世界丸出しなのがすごくいい。

まだまだ読んでいない作品がたくさんあるけれど、ある程度読んでくるとディック独特のガジェットは気にならなくなってくる。 それよりも世界観を超えた、伝えたいメッセージが見えてくる。 この作品ではディックのデビューに対しての不安や作家たちの世界への皮肉が混ざり合ったメッセージを感じた。 本人から聞けるわけではないので、正しいとは言えないがそう感じた。

例えばハーブ・ムーアがカートライトを分析したときは、

あなたはなにごとにも頭角をあらわしたことがない。

と書いており、作家としてデビューした自分への戒めのようなものを感じた。現にこの作品は結構内容がまとまりきっておらず、一度読んだだけではわからない部分が少なくなかった。 それはよくいうディックらしい世界観というか表現の話ではなく、全体的にプロットを整理しきれずにねじ込んだ感じがする。

けれども、そんな整理のつかない途方も無い作家人生を、プレストンが望んだ宇宙の旅として描いているとも言える作品だ。 偶然が支配する世界の歪みと運命に争う一人の男の戦いを描いた、純粋な物語だった。

ガジェットは別に、ディックの作品ではとにかく読者を世界観に迷い込ませる。それは没入させるだけの意味ではなく、作品の世界で登場人物たちが現実に翻弄されるように、読者もまた不確定な世界に文字通り迷い込ませるのだ。偶然世界ではそれが少し物足りなかった。(というかこのあとに生まれた作風なのかもしれない)

強いて挙げれば、読心術を使うティープ部隊が唯一歯が立たなかった、ペリグという男の仕組みだけが(その不確実性が)作風の芽であるかもしれない。 最後の儚さといい、謎の多い作品だった。


実はもう一つディックは読み終わっていて、そちらも感想を書いている。そろそろ技術書を読もうか...

読書所用時間:約6時間
執筆時間:約30分(830文字)
オススメ度:★★★☆☆