道産子エンジニア

あなたは何事にも頭角をあらわしたことがない。

フィリップ・K・ディック「高い城の男」を読んだ

高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568)

高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568)

  • 作者: フィリップ・K・ディック,土井宏明(ポジトロン),浅倉久志
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1984/07/31
  • メディア: 文庫
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ディックストックも残りわずかなので追加しないといけない。本のページ数が少なくなったときの寂しいけど展開は盛り上がるのが結構好きだったりする。ボレロのような。同じように残り2冊になったら読むのは名作の高い城の男にしようと決めていた。読んだ作品の中でもやはり上位に入る面白さだったので思惑通りにいった。アマゾンプライムビデオにドラマとして映像化されているのでインターネットが開通したら見ようと思っている。

他のディック作品を読んでいればいるほど、この作品がディックらしくないのに、ディックらしいということがわかる。というのも、あまり読んでないで感じるディックらしいというのはガジェットが出てきたり、コテコテのSF世界こそだと思うが、この作品にはそれがほとんどない。ディックが好きな対比や世界はよく出てくる。西と東、アメリカとロシア、ドイツと日本、核戦争などなど。元妻もしっかりでてくる。もっと読んでいればディックらしさとは、人間が思っている世界の不確かさ、曖昧さ、偽物と本物の差とかそういう哲学がどの作品にもあることに気がつく。そういう違いを知りながら読んでいくと、いつから俺は〜だと勘違いしていたのだろう?と迷路に迷いこむのがディックの楽しみ方というわけだ。この作品の面白いところはそのトリックが巧みに物語に溶け込みつつも読んでいるだけでは気が付かず、むしろキャラクターのドラマのほうが作り込まれているところだと思う。そしてオチはしっかりとディック作品になっている部分こそが、「やられた!」と感じるミステリーのような流れがすごくよかった。

作品中で発禁本になっている「イナゴ身重く横たわる」がキーとなって物語が進んでいくのだが、この「高い城の男」という本自体がドイツでは発禁処分を受けているというのも面白いエピソードの一つだと思った。それぐらい表現は過激で差別的な部分が含まれている。

作中で登場するドイツ帝国の領事の小説への考え方がすごく好きだった。

どれだけうわべは上品そうに見えても、あらゆる人間の中にひそむ下劣な欲望──小説はそこへ働きかける。

そう、小説は人の欲望をいろんな形で表現している。読者が持つ潜在的な欲望を「読ませる」ことで顕在化、発散させることができる。また、作者も自分の下劣な欲望を、作中のキャラクターが演じさせればいい。文に変換すれば自分はド変態であると思われない。読者は作者の意思ではなくキャラクターの感情に移入するからだ。

すべてが下劣な欲望ではないし、完全な言いがかりだが、読み漁る本に人は何かを求めて発散しているのは嘘ではないと思う。

他にもキャラクターより目立つのが易経だ。読めば詳しくなる。本来は答えを見つけるため、行動指針を決めるために占いなどを行うと思うが、キャラクターたちが易経の暗示に翻弄されていくようでまた面白い。占いなどは全く信じないのだが、信じる人の行動原理や拠り所には興味がある。この本を面白いと感じたのはそこが大きいのかもしれない。


似た作品としてよく聞く?ユナイテッドステイツオブジャパンも少し気になっている。

引っ越しやら仕事やらで読書ブログすっかりサボっていたけど、本は色々読んでいる。インターネットがまだ無いのが本当にツラいのでNuro光というかNTTの仕事遅すぎクソ。

読書所要時間:約10時間
おすすめ度:★★★★☆