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フィリップ・K・ディック「流れよわが涙、と警官は言った」を読んだ

流れよわが涙、と警官は言った

流れよわが涙、と警官は言った

PKDで10作品目に読んだ。例のごとく、数ヶ月おきに行われる早川50%オフセールだったので、前回の分をこれで読み終わって、また数冊ディックを追加した。また半年はSF小説に困らないだろう。

3千万人がみるTVショーのスターであり、主人公ジェイスン・タヴァナーが自分という存在が消えた世界にいってしまうという話の作品。サイバーパンクな世界観だが、同時にシステムから外れた裏の世界が巧妙に描かれていた。人は何を自分の拠り所にしているのだろうかという疑問を感じるような作品でもあった。自分らしく振る舞うには何が必要なのか。優れた部分に潜む人の愚かさをキャラクターを通じて感じた。

また、この作品でも重要なシーンに薬物を使用するところがある。以前読んだパーマーエルドリッチの三つの聖痕を思い出すような、神秘的、幻想的な表現がうまかった。本当に本人は服用しながら書いていたのではないかと思うくらいに。

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本書はディックの作品ではあまりみたことがなかった「エピローグ」の章があり、嘆きの物語へのオチをきちんと書いていたのが面白かった。これまでの作品では答えのない、想像を働かせるようなものや本当か嘘か、現実か夢かわからないようになって終わるというオチが多かったが、どうなったのかを書いているので読んでスッキリはする。特に好きだったのは、タヴァナーが一瞬のときを過ごす陶芸家のメアリーという女の子がでてきて、タヴァナーがその子の作品を評価し、後世に残るところだった。ディックに陶芸について知っていたということも驚きだ。作品にでてくるものについてかなり調べるのは作家として大事なのだが、未来ガジェットを描くおっさんが陶芸にも興味を示しているのすごい。(小並感)


時間感覚のずれや薬物による幻覚の溶け合う世界に、自分の存在意義を見出すようなそんな作品だった。トリックは簡単だったので普通に面白いくらいな感じ。

読書所要時間:約6時間
おすすめ度:★★★☆☆