道産子エンジニア

悲観主義は気分に属し、楽観主義は意志に属する

上田 早夕里「華竜の宮」

SF好きの同僚に教えてもらって読み始めた日本SF。日本のSFはあまり読んでこなかったので、読むならどれがいいかな?と聞いたらこれを教えてもらった。「ポストアポカリプスやディストピア世界における生命の目的」みたいな設定が好きな僕には引き込まれる一冊だった。読み終わったときの素直な感想は、「映像でみたいな」と「青澄(アオズミ)のような仕事に器用で生きるのに不器用な人物が本当に愛おしい」だった。

作品全体を通じて、陸と海、人と機械(アシスタント知性体)、人と魚人、魚舟と獣舟、人間の功績と罪、科学と大自然などの対極が複雑に絡み合いながら、バランスをとっていく世界が描かれていたのが面白かった。対極から太極へ、世界は白黒ではなくグレーであると突きつけると共に、知性による交渉、本能としての暴力が入り乱れて、過酷な世界をよりリアルに描き出していると感じた。

大抵の生命の行動原理は偶然決まるものであり、自分達にとって正しいと考えることが他者の害であることは自然だ。それは、どれだけ別な生き方を選んだ生命同士でも、地球という環境で共に生きている限り、いつかは利害が一致しなくなることがある。人間として生きる青澄は、それを理解しつつ、個々の世界の生命が目の前の小さな幸せを築くことに全力を注ぐ愚直さに惚れぼれした。


おすすめ度:★★★★☆