- 作者: ジョージ・オーウェル,高橋和久
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2009/07/18
- メディア: ペーパーバック
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THE ディストピア作品と言えばこちらというか、俺が紹介するまでもなく有名な本作を今更ながら読んだ。ディックにハマりすぎて他の名作に手を付けてなかった。いつもどおりの海外SF小説セールで買い漁った中の一つだ。
最初にKindleで購入して読み終わったのだけど、なんと電子版にはピチョンの解説がないと知り唖然。即日近くの本屋に文庫本を買いに行き、少しくたびれた装丁を眺め、ワクワクしながらカフェで読み込んだ。
一九八四年と言えば、タイトルそのままでわかる通り、村上春樹の1Q84のプロットの起点となっていることでも有名だ。1948年に書かれていると言うから驚きだ。ピチョンの洞察にある「なぜオーウェルがこの作品を書くことになったのか」というのは70年経った今でも興奮せざるを得ない内容だ。この作品を読む前と読んだあとでは「101号室」への心象がガラリと変わるから面白い。絶対に住みたくない部屋No.1だ。
主人公のウィンストンが悲願の絶望へと駆け上がっていく、陰鬱で凄惨なストーリーではあり、その影響力はすごく、昨日のブログにあげた本にも「ビックブラザー」など引用が入るほど知らない人はいないだろうくらいなのだ。日本でこの本を読んでる人がどれくらい理解しているか不明だが。
圧倒的支配力を持つ政府がどのようにして統率を行っているかを淡々と書かれていくのだが、その過程で必要になる「ニュースピーク」および「二重思考」がキーになっており、この二つの重要な概念こそが一九八四年の世界感で一気に引き摺り込むトリックにもなっている。
政党に対する疑問や不満を持つことを思考犯罪と呼ばれる世界で、そういった考えを言語自体が持たないように変えるための言語をニュースピークといい、付録にも綿密に設計されたニュースピークの解説が載っている。人間の思考は自分の持つ言語で行われるため、犯罪思考を持たなくするには犯罪を考えられない言語に置き換えるという恐るべき方法である。
俺が感じたのは、ニュースピークは情報操作、思考操作を行うための手段であり、刻一刻と失われていくユートピアの世界を着実に蝕むための強力な道具だということだ。主人公のウィンストンが行なっているのもその仕事であり、ニュースピークによる情報改ざんが遂行されたその時点から世界を変えていく恐ろしさを感じる。しかし、冷静に考えると人には記憶がある。それは今ある情報を改ざんするだけでは簡単には置き換わらない。そこで二重思考なのだ。
二重思考とは、作中の言葉を引用すれば、
二つの矛盾する新年を心に同時に抱き、その両方を受け入れる能力をいう。
これだけではさっぱりかもしれないが、先の例では人々の記憶に存在している歴史は、情報を改ざんしただけでは変えることができない。そこである事実に対して、それと矛盾する虚偽を「虚偽であると理解しつつ、真実であると認めさせること」をいう。
作中に登場する多くのものが矛盾に満ちている。
戦争は平和である
自由は屈従である
無知は力である
という党の三つのスローガンにも現れているし、戦争を行うための軍事機関を平和省と呼んだりしているのもその一つだ。
ここまで説明しても、まだ読んでない人にはよくわからないだろう。本書を読み進めている時の自分にもよく似ている。そうして、この二重思考という方法を理解したとき、読者は初めて党員となり、この本のファンになり、2+2は5になるのだ。
悲願のクライマックスに、絶望と幸福をみることができたら、あなたはオーウェルのファンになるだろう。
読書所要時間:約8時間
おすすめ度:★★★★★