道産子エンジニア

悲観主義は気分に属し、楽観主義は意志に属する

重金敦之「利き酒入門」読んだ

利き酒入門 (講談社現代新書)

利き酒入門 (講談社現代新書)

この本をワンカップを飲みながら読んでいたけれど、読んでいくうちに飲むのが楽しくなっていた。唎酒師の資格が欲しいがスクールに通うのは馬鹿らしいので、独学するために買った本の一つ。全体の印象としてはワインの方がメインに書いてある本だったので、日本酒のもっと詳しい勉強という内容ではない。

買ってから気がついたが、1998年が第一刷とそもそも古い本だった。けれども、内容自体が古いと感じることはなく、世の中のブームなどが違うくらいでほとんど今の世界と変わらないものだった。それだけ酒造りというのは歴史あり、続いている産業であることがわかってくる。

調べてわかったが、最近の酒税法に関する変更などはここからみれる。

酒税関係法令等の改正|酒税|国税庁

デキャンタージュって何

これ実はちゃんと知らなかった… ワインは年代物になるほど、オリのようなものが沈殿する(赤のみ)。それがグラスに入っては困るので、ワインボトルを開けて静かに放置しておくことをデキャンタージュというのだ。決して飲み屋で多量のビールを頼むときにピッチャーでくるように、ワインはデキャンタボトルでくるわけではないのだ!というか、どんな居酒屋でもデキャンタと言わずにピッチャーといって欲しくなってくる…

こんなウンチクを話されてもつまらないので、心の中にそっと閉まっておくことにしたが、正しいことを知って飲めるというのは、ある種知っている人しかできないのだという気持ちは忘れないでいきたい。

白ワインはレモン、赤ワインは胡椒

著者の重金さんはこんな比喩表現をしていた。巷ではよく肉に合うのは赤ワイン、魚に合うのは白ワインなどと言われるが自分の中で明確な基準を持っていなかった。それは確かに飲んでみるとなんとなく感じるのだけど、それ以上の説明が難しかった。もう二十年近く前の本にこんな風に書かれていて学べるなど思いもしなかったが、時を超えて何かを知ることができるのが本の醍醐味といってもいいだろう。

白ワインはレモン、赤ワインは胡椒だと言われると確かに納得がいく。肉に胡椒をかければ合うし、魚にレモンをかければ合う。チーズに胡椒は合うが、レモンをかける人はいないだろう。といった具合にある程度想像できる。

アッサンブラージュはもはや酒の基本かもしれない

詳しくは書かないがIT業界でも「アセンブリ言語」といわれる機械が読みやすい言語があるが、この「アセンブリ」という部分もアッサンブラージュと同じ英語である。アセンブル(assemble)とは集合するとか集めるという意味で、シャンパンではストックした年数の違うブドウを混ぜ合わせて原酒を作ることを指す。シャンパン以外にもウイスキーではスコッチウイスキーの95%(1998年当時)はモルトウイスキーとグレーンウイスキーのブレンドだし、日本酒は本醸造系と呼ばれる日本酒の原酒に醸造アルコール(焼酎)を混ぜたものが普通に売られている。原酒はどの酒でも基本的に濃くキツい。香りを広げたり、飲みやすいアルコール度数にするにはどうしてもブレンドが必要になる。

日本酒について詳しく書かれている漫画、「もやしもん」でもあるシーンで昔は日本酒を酒屋がいい感じにブレンドして測り売りしていたという部分がある。 酒を知るほど、個性豊かなそれぞれの酒のいい部分を知っているので可能だったのであろう。

垂直テイスティングと水平テイスティング

持ち寄り会などを自分たちでやるときはいろんな趣向でやってみるのがいいと思う。 大学時代に日本酒サークルでよくやっていたのは、決めた米のみでみんな好きなものを買ってくるというものや純米酒限定での水平テイスティングが多かった。 本では一つのワイナリーのワインを年代別に飲む、垂直テイスティングを紹介していて、年代が古いものになるように飲んでいくのが良いと書かれていた。

個人的に最近機会があって行けた六花界の系列店「吟花」(ぎんか)では、三重県の元坂酒造、酒屋八兵衛の水平テイスティングが行われた。 吟花では基本的に毎回一つの蔵で水平テイスティングが行われているようだ。料理に合わせて選ばれているので、それぞれの料理と飲み比べるような飲み方はおすすめされないかもしれない。

ホームパーティーをやるときは垂直テイスティングがいいと思う。酒の種類や年代に応じた変化がわかるから。日本酒は同じ米、年代でも全く違うものが出来上がることが多い。けれど、お店などではどうしても種類の方に目がいきがちになってしまい、次の日になってみると何を飲んだのか覚えていないなんてことにもなる。なのでぜひ一つの酒を年代や酒の種類別で垂直テイスティングしよう。

ソムリエの役割

このタイトルの節はとても共感できたし面白かった。特にソムリエが客に酒を提供するときに、客が期待に合わなければ変えてくださいと伝えているという話でこんなことを言っていたそうだ。

お客を一人失うくらいなら、ボトルを一本捨てた方がましというものである。

ソムリエに求められるのは、自分の趣味や好みを伝えることでない。ワインを知らない人にできるだけ正確に伝えることだ。ソムリエだけでなく、唎酒師も同じだろう。ならば合わないことも当然ある。うんちくを披露するのではなく、たくさんの情報を分析し、正確に酒の魅力と味を伝えることこそが肝要である。

入門とは何か

なんとなく入門と聞くとほとんどの人が初心者に向けた学習の事始めをイメージするんじゃないだろうか。 そんなイメージでこの本を読んでいて感じるのは「入門にしてはちとハードだな?」だと思う。

最初に正しておくと、入門とは学習を始めることであり、決して初心者のための何かではない。つまり、入門と書かれているといっても、書いてある情報が簡単であることはないのである。ここにギャップを感じて「ああ無理だ」と感じてしまうのは勿体無いと思う。自分的にはお酒について知りたければ確かにこれくらいの情報量と分野の広さを知るにはいい本だと感じだ。

ワインの種類、特定呼称名、成り立ち、ワイナリーの歴史、世界の地理、ワインの醸造方法、味わいの化学、飲み方などなど今も知られている多くの知識が盛り込まれている。筆者の体験ベースで物語となっているので、とても読みやすかった。

酒の世界へと繋がるという意味でとてもいい本だった。


他にも面白い部分がたくさんあるし、何度でも読み返したくなる部分が多かった。次はより詳しい本を読んで理解を深めていく。

酒は本当に奥深い。

読書所用時間:約4時間
オススメ度:★★★★☆

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