- 作者: 森見登美彦
- 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
- 発売日: 2008/12/25
- メディア: 文庫
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今年の四月に映画が公開となっていて、今更ながら見てみようと思ったのだけど、今回はその前に原作を読みたくなったので先に読んだ。 夜行以来の森見作品となる。夜行についての記事はこちら。
再読となっているのも、この作品に出会ったのは今ほど本を読まなかった高校三年か大学入学前の春休みくらいだったと思う。 当時アジカンが好きでソルファのアルバムを買ったときに、中村佑介さんのこのイラストに惹かれたのだ。 再読して色々調べてたらまだまだ知らないことはあったし、前回と違い「四畳半神話大系」を見てるのでキャラクターたちの個性が十二分に楽しめてよかった。これを機に昔に読んで内容を忘れてしまっている本をどんどん再読していこう。
本の繋がりとタイトル
本の中ですごい好きなシーンが、古本市の神様が言ったこのセリフのところ。
父上が昔、僕に言ったよ。こうして一冊の本を引き上げると、古本市がまるで大きな城のように宙に浮かぶだろうと。本はみんなつながっている
このセリフのあと、主人公の「先輩」がそこで手に取ったシャーロックホームズの全集について、ホームズが「失われた世界」を描いたのはジェールヴェルヌの影響を受けているというところから始まり、その近くで別の人が読んでいる織田作之助の全集まで全てが繋がっているというシーンだ。
人は人から影響を受けて生き続けている。人がもっとも影響を受けるのは恋人や家族だろう。影響というのは似るということではない。自分はむしろ学校や会社で働く集団心理が苦手なので、周りの人がTwitterで「いいね」したら自分もしちゃうって普通にできる人は羨ましい。そうではなくて、 影響を受けるというのは自分の考えが相手の行為や思想によって少し変化すること だ。好きなものを好きになるも影響の一つだし、逆に自分はそうじゃないなと気がつくことも影響だと言える。
現代で人が創造する理由は「影響」でしかありえないだろう。どんなアーティストも自分が勝手に何かを思いついて、独りでに何かを創造するというのは、これだけ何も考えなくても情報が押し寄せる世界では起きにくいと思える。そう思うほど世の中は人の創造物に溢れかえって、便利で楽しくなっている。
さて、タイトルの夜は短し歩けよ乙女は何の影響だろうか。
調べればすぐわかるけど、「いのち短し恋せよ乙女」ってよく聞くフレーズをもじったもので、そのフレーズは1915年(!)に作られた「ゴンドラの唄」という作品の冒頭だった。このフレーズ自体は今もよく引用されているし(最近だとクリープハイプが歌ってたのを鮮明に覚えている)、2006年にこの本が初版なのでだいたい一世紀も昔から繋がってきて、この本のタイトルになってるってなんかロマンを感じないだろうか?
先輩と黒髪の乙女のちぐはぐな恋の御都合主義物語で、気持ちがほんわかするので読んでよかった。先輩のような男の気持ちの葛藤と乙女の好奇心が魅力的で、またいつか読み返すだろう。四畳半神話大系などを先に読むのもおすすめだ。再読したら映画を見るのが一層楽しみになったのでよかった。
個人的には映画の女の子より、原作表紙の女の子の方が好みなのだが、声が花澤香菜なので一瞬にして悩殺されるのだろうな。
読書所用時間:約5時間
オススメ度:★★★★☆