CA14 Advent Calendar 2013の11日目の記事です.
11日目を担当するのは北海道の大地に育てられた,前川です.
ある種の強迫観念にとらわれてるかのように書いてますが,この企画本当に楽しいので皆さんもやってください.特にマンガをよく読む人,活字だけを読む人,技術書が本だ!という人,物語が好きな人とか色々いらっしゃると思いますが,あえて自分の普段読まないものを読んでみると面白いかもしれません.
さて,僕は何の本を読もうかと考えて函館にできた新しい蔦屋を放浪してみました.
僕のFacebookを見てもらうとわかるのですが,最近やたら日本酒にハマっています.
みんなに日本酒のことを興味持って欲しいなぁ〜自分ももっと勉強したいなぁ〜とか思いながら見つけたのが今回の本「美酒の設計」です.
つい最近ですが,良くしてもらっている酒屋さんの勧めで「雪の茅舎」という日本酒を一升買い,飲み会に持っていったら1時間かからずに無くなるほど美味かったということがありました.
この雪の茅舎を作っている齋彌(さいや)酒造のラインナップの一つに「美酒の設計」もあります.
"こんなに美味い酒を作るにはどんな秘密があるのか?!"
あの酒の味を知った僕の脳細胞はこの本を見た瞬間に意識を消し,我に返ると家でこの本を読み始めていました.(もはやカレンダーのためでなく自己満足)
しかし,この本の魅力は美味い酒を醸すのに必要なことが書いているだけではありませんでした.
この本には「日本人のモノ造り」の原点があると感じました.
日本酒は「米,米麹,水」の三つで作るお酒です.僕の勝手な見解ですが,日本酒は世界で最も美味い酒です.その理由は三つあります.
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安い
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無限に表情を変えることができる
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人の味がする
安い
安いからなんだ?と言われるかもしれませんが,こんなに手間がかかるものをこんなに安く売っているのは他のお酒から見ると異常です.
ワインやウイスキーの良質なものは720mlで数万円から数十万以上とべらぼうな値段がします.しかし,その価値が本当にわかって飲んでいる人はいないのではないでしょうか.ボジョレーヌーボーを毎年3000円も出して飲むのは日本人だけです.あの値段の大部分は原産国から急いで持ってくるための輸送費です.冒頭であげた「雪の茅舎」は1800mlで3000円です.美味い酒がこんなに近くにあり安いのになぜ飲まないのか?日本人なら日本酒を飲め.
無限に表情を変えることができる
最近は「吟醸酒ブーム」なので新鮮な酒を早く飲むことが多いです.確かに吟醸酒にしか生み出せない独特の風味や旨味があります.しかし,本来酒は寝かせてなんぼなのです.ワインやウイスキーもその点においては非常に発達しているため,僕は「日本酒,ワイン,ウイスキー」が酒だと思っています.(他のお酒が好きな方はいらっしゃると思いますが,僕の個人的な意見ですので気分を悪くしないでください.)まぁ,芋焼酎とかは香りは良いが味わいがない(甲種の焼酎とかは見ただけで吐き気が…),添加物だらけのリキュール類に至ってはこれ以上言及できません.
確実に言えるのは,「美味い酒は寝かせてできる」ことです.さらに言えば,ワインはワインにしかならない,ウイスキーはウイスキーにしかならないが,日本酒はものにもよりますがワインの芳醇な果実の香りも出せれば,ウイスキーのスモーキーな木香もだせるのです.もっともっと言えば,寝かせると焼酎の古酒のような味わいも出せるし,寝かせなくても発泡性のすず音のような遊び心あるお酒にもなるのです.
一つの酒で他の酒に化けられて,しかも日本酒としてのプライドは捨てない.
こんな酒は他に無いでしょう.
人の味がする
「こいつやばい」と思われるかもしれませんが,これがもっとも重要では?!と思うほど大切なところです.
日本酒は醸した人の姿勢,信条,気質などが驚くほどにわかります.
特に,同じ米,同じ酵母などを使っている日本酒を飲み比べるとよくわかります.
水の影響は否定できませんが,だいたい同じ材料でも全く味,香り,性格などが異なっていて,「どんな風に育てるとこんな味になるのか」と飲み手に思わせる酒ばかりです.
男気があるしっかりとした出立ちの力強い酒,美しく華やかに装うが何処か寂しさを持つ酒,強い印象はないがどこか忘れられない酒,じゃじゃ馬のように飛び跳ねて踊る酒と枚挙に暇がありませんが,これらはすべて作り手の個性なのです.
どんな酒にしたいか?酒の中でも何を大切にするか?日々試行錯誤し蔵の人たちが意識しているからこそできる技です.
「酒は人なり」「酒造りは,人も造る」
と本文の言葉にありますが.まさにその通りです.
これはエンジニアにとっても必要なことだと僕は思います.
この本は基本的な酒の作り方から始まり,齋彌酒造の杜氏・高橋藤一の酒造りの由来や「雪の茅舎」の誕生まで広く書かれていますが,あえて皆さんに伝えたいのはモノ造りを行う人として酒造りから学べのは何か?というところです.これはエンジニアだけでなくデザイナーやビジネスの人にも通ずる何かがあると思います.
晴れてサイバーエージェントに奉職するわけですが,僕に染み入った酒造りの信念は
「清潔」「勤勉」「謙虚」
です.
美酒を造るためにこの三つはどんな蔵人も忘れてはいけないと書かれています.
酒造りは菌との闘いであるため「清潔」があげられていますが,これは酒造りだけでなく「美しいモノを造るには美しい環境,美しい心が必要だ」と僕は思います.
仲間同士が切磋琢磨し合える会社の環境,造りたいモノへの圧倒的な情熱を持つ潔い心こそ,美しいプロダクトを生み出す.そう信じています.
もちろん,何かを造りたいときにその技術や知識が無ければできません.酒は単純な行程の中に様々な技法を用いて造られています.微生物の生き残り競争などは面白いです.藤田社長もおっしゃる通り,自分たちの手で造ることに意味があるのです.そのためには自分にまだまだ足りないことがたくさん見つかると思います.僕は「勤勉」が苦手なタイプでした.自分勝手に物事を進めて,足りないものは誰かに任せる.やり方は色々あると思いますが,まず自分が「学びたいこと」に真摯に向き合い,ひたむきに頑張ることが大切であると改めて思いました.(当たり前ですが)
「謙虚」さをはき違えてはいけません.弊社は俗に「チャラい」と言われるから「謙虚」にいこう!とかそういうことではなく,自分たちが仕事をする上で大切なものに敬意を持とうということです.酒造りの場合,「酒は人が造るのではなく,微生物が造る.その手助けをしている」と書かれています.これは自然から授かる酒として当然の考えなのですが,ふと普段の自分を見返してみると「こんなにうまくいくのは自分がすごいからだ!」と傲慢になってし舞いがちだと思います.
確かに努力したのは自分たちですし,その報酬として賞賛を浴びているかもしれません.しかし,実際には毎日のエネルギーを得るご飯を作ってくれる家族,心を支えてくれる恋人,互いに助け合う同僚,新しい考えをくれる上司とか他にもたくさんいると思います.人だけでなく,疲れを癒してくれる極上の晩酌,日々我が儘を聞いてくれるPC,自分の個性を表現してくれる衣服とかでも良いと思います.
そんな森羅万象への敬意を持ち合わせながら,「やればできるんだ!」とチャラく見せられたらそれはそれでカッコいいと思うし,誰にも負けない理由になるはずです.
僕はよく「冷静な情熱」が必要だ.と考えていますが,そういうことです.
以上の三つが本を読んで得た,皆さんに伝えたいことでした.
最後に言いたいのは
「みんなで日本酒好きになろう」
です.日本酒好きの方は声かけてください.
以下,ぼやき.
- 日本人なら日本酒を飲まずして何を飲む?!
- 一杯目の「とりあえずビール」は酒に失礼だ!!「いつもありがとうございます」だろ
- 日本酒を英語で「Sake」じゃなく「Nihonsyu」にしたい
- サイバーで日本酒会を作ろうと思ってます