道産子エンジニア

悲観主義は気分に属し、楽観主義は意志に属する

レイ・ブラッドベリ「火星年代記」

アルプに関わってくださっている方からお勧めされた一冊!古典SFは読む?と言われて、そういえばディック(古典後のニューウェーブ?)以外は全然読んでない...と思いブラッドベリに手を伸ばした訳だが、まだまだ読みたい作品は多い。 H・G・ウェルズ、ジュール・ヴェルヌ、アーサー・C・クラーク、アシモフ、ウイリアム・ギブスンなどだろうか。古典SFの定義は曖昧だが、1800年代後半から1950年くらいまでなのかなと感じている。映画ではたくさん見ているんだけどね。

本作は短編同士が火星という舞台でゆるく繋がった小説だ。ジャンル名がないと思う。オハイオ州ワインズバーグ物語は読んだことないけど、個々の短編が完全独立しているわけではないスタイルが一致していることを冒頭の中で言いたかったのだろう。 また、同じく冒頭でこの作品はSFではないと書いてあるがその通りだなと感じた。あえてSFにするのなら「火星で地球人が生活できるようになった世界」が前提のサイエンスフィクションだろう。とはいえ、主題は異文化の中にアメリカンナイズされた人々が侵略していき、決して分かり合えないまま崩壊へと進む醜さを風刺している作品だ。それがたまたま火星が舞台になっているからSFっぽく感じやすいのであって、どちらかというと単なるファンタジーだと感じた。

個人的には「2031年4月/第三探検隊」のブラックさが好きだった。僕自身ディックが好きなせいもあって、精神世界を描いたシーンがやはり好きだ。その流れだと「2032年6月/月は今でも明るいが」もメタSFとしてメッセージを投げかけているように思えて好きだった。人間が夢見た火星には「科学」を「芸術」として扱う火星人たちが暮らしていて、生命が感じる自然への「美しさ」を科学で破壊するな!とでも言われた気分になった。とはいえ、整然と並ぶ人工的な外壁に美しさを感じるのもまた人間であり、その人工的な美しさを否定できない限り、人の美しさは科学されるのではないだろうか?とも考えてしまうのであった。

古典読む!と言っておきつつ、次に読んでいるのは「火星の人」で有名なアンディ・ウィアーの最新作「プロジェクト・ヘイル・メアリー」なんだけど。


読書所用時間:約6時間
執筆時間:約1時間(1030文字)
オススメ度:★★★★☆