素人のように考え、玄人として実行する―問題解決のメタ技術 (PHP文庫)
- 作者: 金出武雄
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2004/11
- メディア: 文庫
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先日出した「Fictions」で「デザイナーのように考え、エンジニアとして実行する」という節があるのだが、そのタイトルの元ネタにしたのがこの本だ。 カーネギーメロン大学の教授であり、アメリカ全国民が見てるといってもおかしくないアメフト大会「スーパーボウル」のCMに映ったことのある唯一の日本人としても有名だ。(確か1秒1000万の広告費)
映画マトリックスの撮影技法として有名なストップモーションムービーというのがある。これはトリニティが戦闘時にジャンプしたシーンを円形に配置した数十台のカメラで同時に撮影し、それをつなぎ合わせることで一つのシーンを多視点からみることのできる技法だ。これを応用しアメフト選手がコート内のどこにいてもプレーを多視点から見たり、追跡、きわどいシーンの判定を別角度からといったことを可能にしたのが「EyeVision」である。Youtubeで動画をみるとわかる。それを作成したのが金出先生だ。
本のタイトルになっている「素人発想、玄人実行」という考え方がすごく好きだ。エンジニアをしているとこの世の全てはエンジニアリングでどうにかなるというような発想を持ちがちで、それ自体そんなに間違ってないと思うけど、エンジニアリングは基本的に野暮ったいというか愚直に物事を進める。そのせいでなんとなく「イケてない」感がどこかに生まれる。それは実装も然り、UIも然り、発想も然りなのだ。問題解決のアイデアは基本的にもっと純粋で素人的な発想から生まれる。デザイナーの発想方法はそれにかなり近くて、根源的でかつそうあるべきだよね!というような視点があると俺は思ってる。「理想から」考えるというと少し近いかもしれない。なのでFictionsでは文字って先のタイトルにしたのだ。多分ほとんどの人に伝わっていないとは思う。書いてみてより整理できた。
本の内容に戻ると、この本はタイトルのことをHow toで書いている本ではなくて、タイトルの言葉を思いつくまでに至った、金出先生のこれまでのアメリカでの研究生活に沿った物語とそこで学んだエッセンスをまとめたような本だ。なかなか一言で表すのが難しい。これはFictionsでもそうだが、いろんなことを一つにまとめると一貫した本になりにくい...そういう本をうまくまとめるのは物語にすることなのだなと学んだ。
面白かった話をメモしておく。
アイデアを話すと盗まれるのか
金出先生は研究者、企業の人、学生などからよく言われるそうだが、以下の三つを考えろと答えるそうだ。
相手はすでに知っていた
これはすでに知っているので、ドヤ顔で話してもそうだよね〜となるので問題ない
相手はそれを知らなかったか、興味がなくて忘れた
相手はやったが結果が出なかっただけかもしれないし、自分がまだやれるチャンスがある
相手はまだ知らなかったが、自分が言ったことで気がつき、実行してしまった
この場合が一番怖い。しかし、自分より後から考えて、自分より先にできたということは、相手の方が頭がよく、いずれ自分が負けたに違いない。だから諦めよう。
この三つを考えれば、自分のアイデアがどんなに優れていても、人に話したからといって損をすることはなく、一刻も早く手を動かさなかった自分がもっとも愚かであると気がつける。好きな考え方だ。
自分の考えの表現方法
自分のアイデアの発表の仕方について、実経験をもとにこうした方がいいということが書かれている。アメリカの大学で研究をしている先生が、発表が下手なはずはない。発表がとにかく下手な自分は勉強しなくてはなるまい。
人の関心は最初がもっとも高いので、手持ちのカードのいいものから順に出す
よく言われる手法の結論から話せというものだ。時間がなくなっても、結論を話したのでより詳細なことを話さずに終われるのもいいところだと書いている。
結論で興味を持たせてから、「実は」という発見を与えること
驚きを用意すること。
相手が知っていることと知らないことの割合を5:5、6:4くらいに調整する
これはなるほどと思った。全く知らないことだらけの説明は途中で聞くのを諦めてしまう。しかし、知っていることを聞きつつ、途中に知らないことが混ざってくると「なるほど」と感じる。全くその通りである。
難しいことはわかりやすい例でイメージを喚起させる
聞いている人の目線に合わせた適切な例を選ぶことと、それが本当に難しいことを言い換えているかチェックする
一目見てわからないように作る
意味不明なスライドを作れという意味ではない。それだけを見てわかるスライドを作ると聴衆は理解した後にすぐ別なことを考えるからだという。それに説明を加えて意味がわかればいい。だから発表を見に来た意味が生まれる。自分は今まで一枚だけを見ればわかるスライドを作りがちだったので、この方法も試してみることにした。聴衆がこう考えているだろうなとコントロールしていくのが発表者の進め方だ。完全にはわからないスライドを出し、その後にわかるスライドを出していく。これが大事。
英会話の上達方法
海外に行くたびに、自分の英語のできなさに打ちのめされる。鍛錬の日々だ...
早口、大声で
どんな言語も早く喋るようにできている。なので早く喋る練習をする方がいい。正しく喋ろうとすると声が小さくなるので、早く大きく話すのがコツ。早くて大きいだけで、自然と英語らしくなる。
別なことをしながら頭を空にして聞く
リスニングの上達には、英語を英語で理解できるようにすることだ。これはよく聞く話だが、なかなかそうしろと言われてできるものではない。なので、掃除をしながら聴くなど別な作業で日本語に訳している暇を失くしながら聴くのがいいだろうと書いてあった。これはなるほどと思った。英語を聴きながら、即日本語に訳していくのは通訳などプロのやることだ。海外の発表を聞いてる時は一字一句逃すまいと頑張ってしまうので、つまづいたら取り返しがつかない。その前に全体をぼんやりと理解しつつコンテキストがあれば、どこでも補完がきく。
話が多種多様すぎて書ききれないが、とにかく研究を通じて人生を楽しんでいるというのがわかる本なところがいい。失敗して、苦労して、その分楽しんできたから書ける本であり、自分もこのようにありたいなと思える一冊だ。 発想は素人のように自由で、実行は玄人のように愚直にテクニカルにしていく。こういうやつがいると物事は面白くなるんだよな、と言われるような人間に自分はなりたい。
読書所要時間:約4時間
おすすめ度:★★★★☆